憧れの知床連山

 知床連山は登山を始めたころの憧れであり、今でもその思いは変わらない。


フレペの滝付近から見た知床連山


 知床連山は、羅臼岳、三峰岳、サシルイ岳、オッカバケ岳、南岳、知円別岳、東岳、硫黄山からなる連山で、知床半島の背骨ともいうべき場所にある。羅臼岳は日本100名山にも選ばれており、夏山期間中は多くの登山客が訪れる一方で、知床連山縦走は、夏山のハイシーズン(8月)の週末であっても、多くて10組の登山者が入山する程度で、9月末ともなればほとんど人と会うことはない。

 縦走者が少ない要因としては、縦走するには最低でも1泊の山中泊、また、緯度が高い場所にあるため、本州の3,000メートル級の山を縦走する際と同等の装備が必要となるほど過酷な環境であることなどがあげられる。


羅臼岳から硫黄山方面を望む


 縦走する場合には、①羅臼側から登って硫黄山側に下山する、②硫黄山側から登って羅臼岳側に下山する(以上、一方通行)、③羅臼岳側から登って硫黄山まで行き、また羅臼岳側まで戻って下山する(ピストン)という3つのパターンがある。一方通行の場合には、二つ池で1泊、体力に自信が無い場合には三峰(もしくは羅臼平)、硫黄山第一火口でそれぞれ1泊ずつする行程が一般的だが、中には最低限の荷物だけをもって日帰り縦走する強者もいる。ピストンの場合には、二つ池か三峰のどちらかで2泊することになる。(知床連山で幕営地として指定されているのは、フードロッカーの設置されている羅臼平、三峰、二つ池、硫黄山第一火口の4ヶ所のみ。)


三峰の幕営地から見た夕日


二つ池

その名の通り、池が二つ


硫黄山第一火口

夏でも残る雪渓を通ってたどり着く


 縦走時には、羅臼岳と三峰岳の間にある羅臼平までは、羅臼岳日帰り登山と同じ登山道を歩くことになる。ウトロ側(岩尾別)と羅臼側に登山口があり、網走から行く場合には岩尾別登山口(木下小屋)から入山して羅臼平を目指すのだが、途中2ヶ所の水場があるため、そこまでは必要最低限の水(500ml~1ℓ程度)を持ち、水場で縦走に必要な水(4~7ℓ、泊数により変動。)を確保して登ることになる。そのため、水場まではそれほど負荷もなく登れていても、水を背負ったとたんに一気に負荷が増し、荷物の軽い日帰り登山客にどんどん抜かれていくのが切ない時もある。それでも、途中では景色の素晴らしいところもあり、また、高山植物のお花畑もあるので、楽しみながら登ることができ、羅臼平までは木下小屋から4時間ほどで到着できる。


登山中に見かける花々


 羅臼平はその名の通り、羅臼岳の目の前に広がる平らな場所で、羅臼岳と三峰岳の間に位置しており、風のない日にはお昼寝したくなるほど穏やかなこともあるが、基本的には風の通り道となるため風が強いことが多い。海から風が上がってくるため、急に霧がかかることも多く、さっきまで晴れていて羅臼岳が見えていたのに、あっという間に見えなくなってしまったということもあり、ずっと晴れていたのはあまり記憶にない。

 縦走者が羅臼岳に登る場合には、ここで荷物をデポして(置いて)頂上を目指すことになるのだが、羅臼平にはフードロッカー(熊から食料を守るためのロッカー。安全のため食料はテント内には一切持ち込まず、フードロッカーに入れておく。)も設置されているため、幕営地としても利用されている。


羅臼平から見た羅臼岳


 羅臼平までの登山道は羅臼岳に登る登山者も利用するため人も多く、熊の住処にお邪魔しているという感覚はなかなか生まれにくい状況だが、羅臼平から三峰岳へ向かったとたんに世界が一変する。まず訪れるのはこれまでにはなかったハイマツ帯での藪こぎ。これまではきれいに整備された登山道を進んできたが、ここから先は最低限の枝切りが施されただけの、まるで獣道のような登山道を進んでいくこととなる。熊が出るのではないかという雰囲気もこれまでとは比べ物にならず、いよいよ冒険の始まりといった雰囲気である。

 二つ池までは、三峰岳、サシルイ岳、オッカバケ岳と三つの山を越えていくこととなるのだが、1,500メートル以上のピークを越えた後、1,100~1,200メートルまで下るという行程を3回繰り返すこととなるので、アップダウンも激しく体力も消耗。体力的には厳しいが、途中にあるチングルマやイワギキョウなどのお花畑を楽しみながら進むのが、知床連山縦走の醍醐味なのかもしれない。


三峰岳(手前)と羅臼岳(奥)


チングルマが咲く横を歩いていく


 二つ池はフードロッカーの設置されている幕営地で、雪解け水が窪地に溜まってできた大小2つの池があることから、このように呼ばれている。湧水ではないためお世辞にもきれいな水とは言い難いが、煮沸すれば飲むことも可能。ただ、水の中を覗くと無数のボウフラが泳いでおり、煮沸しても飲む気にはなれないかも。少なくとも自分で飲むのであれば、煮沸した上でフィルターにかけるくらいはするかもしれない。

 二つ池では多くの縦走者が幕営するため、8月のハイシーズンには10張ほどのテントが並ぶこともあり、あまり秘境感が味わえない。個人的にはひとつ手前の三峰(フードロッカーあり。ここで幕営する人はあまりいない。)での幕営が好み。ちなみに、二つ池では夕陽を見ることができないが、三峰ではオホーツク海に沈む夕日を見ることができるので、その点からも三峰のほうがより泊まりたい幕営地となっている。



二つ池

ハイシーズンはテントを張る人も多い


三峰の幕営地では、こんな夕日を楽しめる


 ここまででも十分に秘境感を味わえるのだが、二つ池から先の行程はさらに秘境感がアップする。まず、熊の痕跡がこれまでとは比べ物にならないほど多い。糞の数が多くなるのはもちろんのこと、獣臭を感じることもあり、ヒグマの高密度地帯に入ったことを嫌でも実感させられる。これまで、知床で10頭以上の熊と遭遇してきたが、そのうち3頭とはこのエリアで遭遇しており、同じ場所で複数の熊と遭遇したのはこのエリアだけ。

 また、両側が切り立った尾根を歩く箇所があるなど、滑落などの危険性もやや増していくことになる。強風時や雨天時など、天候の悪い時には迷わず引き返すという判断が必要となってくるだろう。

 もちろんこのエリアでもチングルマやイワギキョウなどのお花畑が見られるほか、コマクサやハクサンチドリなどの珍しい高山植物を目にすることができる。(自身は見たことがないが、シレトコスミレもこのエリアに自生しているらしい。)



硫黄山手前の稜線に現れたヒグマ

たまたま見つけたコマクサを撮影するのに時間がかかったので、稜線上で鉢合わせにならずに済んだ


このコマクサのおかげでヒグマと鉢合わせにならずに済んだ


このような場所を進んでいく


ヒグマが現れた稜線(別の日に撮影)


 そして最後は硫黄山への登頂を残すのみ。ただし、強風時など、天候が良くない時は登頂を断念してきたので、実は私自身1度しか上ったことがない。

 登頂した日は天気も良く、知床岳やこれまで歩いてきた山々をじっくりと見ることができたので、とても印象に残っている。本当に地の果てまで来たんだという実感もわいてくる、私にとっては特別な本当に特別な山だ。


右が硫黄山


1枚目:硫黄山から見た知床岳

2枚目:硫黄山から羅臼岳方面を望む


 ここまで紹介してきたように、知床連山縦走はコース自体がとても変化に富んでいうことに加え、幕営場所や泊数にもバリエーションがあることから、何度行っても新鮮な発見があり、飽きのこない登山コースと言えるだろう。

 知床連山、一度は縦走するべし!

Kiroroan cise

“Kiroroan cise(キロロアン・チセ)”はアイヌ語で楽しい家という意味です。 みんなが集まれる楽しい家のようなサイトになれますようにという願いを込めて、この名をつけました。

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