山登り

山登りが大好きだ。

とは言っても、昔からずっと山登りが好きだったわけではない。

埼玉に住んでいたころは山登りなんて一度も行ったことはないし、自然豊かな場所に足を運ぶなんてこともなかった。しいて言えば、小学生のころに親に連れられて行った日光ぐらいのものだろうか。

元々、テレビで自然や動物に関するドキュメンタリー番組を見るのは好きだったから、興味がなかったわけではないけれど、自ら積極的に足を運ぶほどではなかったというのが正直なところだ。

そんな自分が自然の中に足を踏み入れるきっかけになったのは、2002年に仕事で北海道に来たことがきっかけだ。

森永乳業に入社して最初の赴任先となったのが佐呂間工場。佐呂間町は人よりも牛の数のほうが多い町である。町の周囲は山に囲まれていて、もちろん自然がいっぱい。朝聞こえてくるのはニワトリの声ではなくトンビの鳴き声。夜になってちょっと暗い所へ行けば、空には満天の星空と、それこそ牛乳をこぼしたような天の川(Milky way)。地元の人にとっては当たり前のことかもしれないけど、自分にとっては目にするもの、耳にするもののすべてが衝撃的で、普通に生活しているだけでも驚きの連続だったことを思い出す。

こんな感じで、日々の生活からも刺激を感じていたわけだが、人というのはだんだんとこの刺激に慣れてきてしまうもので、自分も普段感じられる刺激以上のものを求めるようになり、自然の中へと足を踏み入れることとなった。最初は車から降りてすぐにあるような場所(神の子池やキムントーなど)から始まり、それでも刺激が足りなくなるとちょっとした散策路など(釧路湿原の遊歩道や藻琴山など)も歩くようになり、ついに2003年の夏には初めて本格的な登山に挑戦することに。その山は、今でも一番お気に入りの山である斜里岳。日本百名山のひとつに数えられる山だ。


斜里岳山頂の景色


この斜里岳登山をきっかけにして、すっかり山登りにハマってまったのだから、山頂からの景色はさぞかし素晴らしかったのだろうと想像されると思うが、実際の山頂は霧がかかって眺望はなし・・・。それなら何が良かったのか?その答えこそが自分が登山にはまった理由。それを一言で言えば、山を登り始めてから無事に下山するまでの「非日常感」。登山中は大きな自然の中で天候や地形に自分の行動が制限され、大自然の前で自分の無力さを痛感する。それほど難しい山に登るわけではないが、それでもちょっと間違えれば怪我を負ったり、最悪の場合は命を落とすかもしれない、ひょっとしたらすぐそばにヒグマがいるかもしれないという緊張感から、五感が研ぎ澄まされていくような感覚になるのだが、この日常では味わうことのできない感覚の虜になってしまったというわけだ。

これに加え、晴れていれば山頂からは素晴らしい景色を味わうことができる。そんな日は山頂に2時間近く居座ってのんびりすることも登山の楽しみの一つになっていった。初登山以降は徐々にではあるが色々な山に挑戦するようになり、ついには夏山シーズン中は休みのたびに山登りに出かけるようになっていく。好きな山に何度も登るのも楽しいのだが、登ったことのない山に行くのは自分にとっては新しい冒険であり、新たな刺激を与えてくれる素晴らしい体験となった。


赤岳山頂にて


山に登る前は、「自分は山に登るなんてことは一生ないだろう。」なんて思っていた。そして、夏山に登り始めてからは、「テントを背負って縦走するなんて、とてもじゃないけど考えられない。」という感じだった。自分は絶対に縦走なんかするはずではなかったのだが、それでもやはり夏山日帰り登山で得られる以上の刺激が欲しくなり、いつしか知床連山縦走への憧れを抱くようになっていった。

知床連山を縦走するには、羅臼平までは羅臼岳に登るのと同じ登山道を通っていく。羅臼平から、南西側に行けば羅臼岳、北東側へ行けば縦走コースとなるのだが、縦走コースに一歩踏み入れると、そこから先は今までの登山道とは全く違った世界が待っている。それは人の数よりもヒグマの数が多い世界。まさに、ヒグマの家にお邪魔するかたちになる。


写真1枚目:知床硫黄山付近で出会ったキムンカムイ(山の神・ヒグマ)

写真2枚目:縦走中の登山道で出会ったキタキツネ。こちらを見る眼光も鋭い。

写真3枚目:後ろ足で耳をかくという、かわいらしい姿も見せてくれた。


ここからは最低限の枝切りが施されただけの、まるで獣道のような登山道を進んでいくこととなり、熊が出るのではないかという雰囲気もこれまでとは比べ物にならない。いよいよ冒険の始まりといった雰囲気で、ここから先へ一歩足を踏み入れるだけで、ワクワクする気持ちと何とも言えない緊張感が一気に湧き上がってくるからたまらないのである。

そして、知床連山の上でテントを張れば、ここで今晩寝るのは自分だけという日もあり、そんな感覚も地上では味わうことのできない、縦走するものだけの特権なのだ。


山の上では満天の星空も味わえる。これも縦走者の特権。


知床連山ではヒグマと出会ったり、天候が崩れて立っていられないほどの風雨にあったりと、行くたびに色々な刺激があって飽きることはなく、これ以上の刺激を求めることはないかと思われたのだが、やはり未知の世界を見てみたいという探究心は収まらず、今度は徐々に雪の世界へと足を踏み入れることとなった。

最初は藻琴山でスノーハイクをする程度だったのだが、せっかくだから冬しか登れない海別岳に登って見ようと思い立ち、ついに今年の3月末に3度目の挑戦で海別岳の山頂に立つことができた。

白銀の山頂から眺める景色はとても美しく、冷たく張りつめた空気も相まって、夏では感じることのできない雰囲気を味わうことができる。ふかふかのパウダースノーに膝くらいまで埋まりながら斜面を駆け下りるのも、冬山ならではの体験だ。かつては絶対に行くことはないだろうと思っていた冬山の魅力は、とてつもなく大きなものだった。


写真1枚目:こんなパウダースノーを踏みしめて登るのは気持ちがいい。

写真2枚目:海別岳山頂からの眺め。奥には流氷と国後島が見える。



道内でもまだまだ挑戦していない山はたくさんある。夏に登ったことのある山でも、冬にも挑戦してみたいと思う山もある。これから先、どれだけの山に挑戦できるかはわからないけど、探究心の赴くままにいろいろな山に挑戦してみたい。


海別岳山頂からの眺め。海別岳の山頂は、とても風が強い。


Kiroroan cise

“Kiroroan cise(キロロアン・チセ)”はアイヌ語で楽しい家という意味です。 みんなが集まれる楽しい家のようなサイトになれますようにという願いを込めて、この名をつけました。

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